世界一の金持ち国
まずは下の表をご覧ください。これは主要国の対外純資産です。対外純資産とは、海外に貸している資産から、海外から借りている債務を引いたものです。資産とはあらゆる海外の民間、政府などへの投資(米国債や株式など)の合計であり、債務は海外からの投資(日本国債や株式などへ)の合計で、その差し引きが対外純資産です。つまり、日本は国家として(政府と民間の合算で)、どの国よりも差し引き貸しが多い、世界一の金持ち国なのです。しかし、多くの人にその実感がないのは、実はこの巨額の対外資産こそが私たちを苦しめる元凶であり、30年間に及ぶ国家経営の根本的な過ちの産物だからです。
対外資産は外貨で積み上がる
日本が328兆円もの世界一の対外純資産を持つようになったのは、貿易黒字を稼ぎ続けたからです。貿易というのは基本的に外貨(主にドル)で決済します。日本にない燃料や原材料を外貨で買い、車などの工業製品を作って売り、代金を外貨で受け取ります。黒字はその差額であり、外貨です。左図で簡単に説明しましょう。日本には基本的に資源がありませんから、原材料を買うために外貨が必要です。外貨準備がなければ、円を売ってドルを買います。1ドル=100円とすれば、100円を売って1ドルを手に入れるのです。それを使って原材料を輸入し、製品を作り、それを2ドルで売ったとします。1ドル=100円のままであれば、そのうちの1ドルを売って100円に換えても、1ドルが黒字として残ります。日本はこうして外貨を稼ぎ続け、実に3兆ドルもの対外資産を積み上げたのです。つまり、328兆円というのは、財務省がそれを円換算して発表しているだけで、実際は全て外貨ということです。そして、それだけの外貨準備を持つ国は、自国通貨を海外に売って外貨を手に入れる必要がないため、元々円を持っている海外勢は少なく、328兆円もの円に換えてくれる相手はいないのです。結局日本人同士で売り買いしながら、外貨はババ抜きのババのように、日本人の誰かが持ち続けることになります。そして、それは日本では使うことも運用することもできませんから、基本的に海外に貸しっぱなしということになるのです。加する
戦後復興という成功体験の呪縛
そもそも、何故我々はこれほどまでに黒字を稼いだのか。それは恐らく、戦後復興の成功体験によるものでしょう。日本は敗戦後、資源も外貨もない中、原材料を輸入して加工し、それを輸出して外貨を稼ぎ、さらに輸入を増やして生産を増やす、という好循環で復興を成し遂げました。それが日本復活のセオリーだったわけです。ところが、それをやりすぎて日米貿易摩擦を生み、1985年プラザ合意で、ドル安円高誘導による是正を求められたわけです。このとき、日本は大きく方向転換すべきでした。戦後40年が経ち、ドル借款も完済した後、それ以上黒字を稼ぎ続ける必要はなかったのですから。ところが、一時的に内需拡大で黒字は減ったものの、バブルの崩壊と共に再び元の路線に戻ってしまいました。恐らく、不況脱却のために成長戦略を描こうとした時、従来のセオリーにしがみつくしかなかったのでしょう。しかし、それが大きな間違いだったのです。
328兆円分のタダ働き
プラザ合意以降の急激な円高の中、輸出を拡大することは容易ではありません。円相場が200円近くから79円台まで2.5倍も暴騰しているということは、同じ1万円の製品が50ドルから125ドルと2.5倍になるということです。その中で輸出し続けるにはコストを削るしかありません。輸入の原材料費はすでに円高で2.5分の1になっていますから、他に削るとしたら販売管理費、人件費など、要するに国内に回るお金です。その目先のコストカットを血眼になってやり続けた結果、どうなったでしょう?国内にお金が回らなくなり、デフレスパイラルに陥りました。その一方で日本の輸出産業は黒字を稼ぎ続け、実に328兆円分もの外貨を稼いだのです。しかしすでに説明した通り、黒字として溜まった外貨は海外に貸しっぱなしで日本には入ってきません。つまり、日本の労働者は受け取れないのです。そもそもその黒字自体が、長時間労働、サービス残業など、労働者を犠牲にしたコストカットの上に成り立っているのに、その恩恵を受け取れない。つまりは366兆円分のタダ働きということです。これは例えて言うなら、我々の血や肉を削って海外に貸し与えているようなものなのです。国家経営の本質を外れていると言わざるを得ません。
本物の国家経営
我々の過去30年の国家経営の根本的な誤りは、それを企業経営と同じように行って来たことです。企業経営の目的は利益の最大化であり、売上を上げてコストを下げようとします。それを国家経営に当てはめると、海外から少なく買ってたくさん売る、つまり外貨で黒字を稼ぐということになります。それが正に我々がやって来たことで、やり過ぎて自分たちの首を締めているわけです。確かに、日本のような資源のない国は、国家として自立するために外貨が必要です。ただ、それには収支がバランスすれば十分で、日本のように世界一の対外資産を持っているなら、当分は若干マイナスでもちょうど良いぐらいです。その上で我々が考えなければならないのは、いかに国内でお金を回すか。したがって、目先のコストを削ることばかりを考えるのも間違いです。もちろん、一企業や一家庭、一個人レベルで考えれば、それが必要な場合もあるでしょう。しかし、国家レベルで考えれば、誰かのコストは必ず誰かの売上または給与であり、コストが高ければ高いほど、売上や給与も上がるのです。ですから、本来の国家経営とは、経常収支(海外との収支)をバランスさせつつ、国内のコスト(=みんなの売上・給与)を最大化させること。そうすればお金は海外に出て行くことも、国民がタダ働きすることもなく、お金は天下の回りものとして巡り、国内経済を活性化するのです。GDPでこれを表すと、
GDP=G(政府支出)+C(消費)+I(投資)+EX(貿易黒字)
である中、EX(貿易黒字)を増やすのではなく、それ以外を増やすということです。ただ、一つだけここで大事なことがあります。それは決してお金の金額で考えないこと。ただお金を回してGDPを上げれば良いというのは浅薄な考えです。問題は金額ではありません。お金は全くどうでもいいのです。大事なのは、それで何をするか。何故なら、お金はいくら回ろうが右から左、グルグル回るだけで何も失われませんが、それで動かす人の時間と労力は、一度使われれば二度と返って来ないからです。ですから、国家経営で最も大事なことは、いかに今生きている人々の時間と労力を大切にするか。そして本当に意味のあることにそれを使うか。そのためには、それらを無駄にするような障害を除去すること、そして明確な方向性を持つこと。それが本来の国家経営であり、フェア党の政策は全て、この考えに基づいて策定されます。